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 ガリレオ望遠鏡の映像を出す。CGで青色に着色された惑星が映っている。私はこれを発見したとき、著名なSF小説にちなみ「ソラリス」と名付けた。名付けた当時はまだ地球の住環境と酷似しているとも知らず、ただ宇宙に対し敬意と畏怖と羨望を与えるきっかけとなった「惑星ソラリス」の名前を拝借した。その後は月のサイズ比に匹敵する一つの衛星と、水、大気、大地といった要素が発見され世間を騒がせた。加えてソラリスの主星と距離のサイズ比も地球と同等とあっては、第二の地球が見つかったと注目されるのは当然であるだろう。  小説の「惑星ソラリス」では広大な海が広がるだけの星だった。しかしその海は地球のものとは全く異なる物だった。水という物質ではない。自我を持つ水だった。惑星のほぼ全域を埋め尽くす巨体を持つその一個体は、訪れた人間たちに無邪気な善意で恐怖に陥れる。  当然、これは架空の話である。実際に、液体が惑星を包み込むほど巨体で、存在していようなどと考えていない。とはいえ、これほどまでに地球環境に酷似した惑星が見つかったとあれば、世界中から注目されるのは当然と言えば当然だろう。人類史上初めて地球外生命体との接触となるかもしれないのだ。  タグが音を立て、メッセージの受信を告げる。娘からだった。すでに自立し、結婚もしている。子どももいる。孫は愛らしく、姿を見るたびに成長している。メッセージの内容も、孫の成長の様子に写真を添えたものだった。妻から娘へ、娘から孫へ、しっかり受け継がれたブルーの瞳が輝いている。もし私がヒスパニオーラ号に搭乗し「ソラリス」へと向かうならば、この目の前のソラリスと決別する必要に迫られていた。  ヒスパニオーラ号は、生身の人間を乗せるような作りになってない。人間の意識をデータ化し、内部のコンピューターに格納することで事実上、搭乗した事となる。建造当時は、ネクサス5を媒体に疑似的な搭乗することを想定されていた。ちょうど今、私がガリレオ望遠鏡に対してやっている事と同じだ。だが、すぐに一つの問題に立ちふさがれる。それは物理的な距離による遅延だった。  電波として通信している間、人間の真の意識はどこに宿るのか誰にも分っていない。もし意識を飛ばす電波が途中で妨害、消失したらその人はどうなるのか。この問題を解決するために編み出されたのが、脳のフルスキャンによる意識の完全データ化だった。
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