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辻浦茜は、しばらく店の前で固まっていた。
茜が通う高校と家の間にあるこの商店街は、けして栄えてはいないけれど、茜のお気に入りだ。
昔からあるお肉屋さんの店先で、安くて美味しいコロッケを売っていたり、小さな個人経営の本屋さんが、今も頑張って営業している。
そんな風景が、茜はとても好きだった。
そんな商店街の中、存在は知っているけれど、入ったことのない店が1つだけあった。
紅魔法雑貨店。
そう書かれた看板を見上げて、茜はかれこれ20分も、引き返そうか悩んでいる。
何の店か、いまいちよくわからないし、友達も誰も入ったことないっていうしなぁ…。
茜の頭の中では、この店についての家族や友人からのコメントが、ぐるぐると渦巻いていた。
友人いわく、この店に出入りする人を見たことが無い。
一緒に住んでいるおばあちゃんいわく、この店はおばあちゃんが生まれる前からあって、店主も変わっていないらしい。
いくらなんでもそんなバカな、と思っていたのだが、実際に店の前に来ると、様々な疑問が頭に浮かんできた。
そもそも、何故今までこの店にだけ入ろうと思わなかったのか。
生まれたときからずっとこの町に住んでいるのに、今日まで不思議とそれを疑問に思ったことが無かった。
店に入ってみよう。やっと決心する。
茜は今とても困っていた。困っていたら、何故かこの店に来れば、何とかなるような気がしたのだ。
大きく深呼吸をして、茜は店の扉を開いた。
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