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「実は…財布を無くしてしまったんです」
「まぁ、お財布をですか?」
「はい。どこにでもありそうな黒の財布で…入ってた金額も、まぁ大したことないんですけど。でも、中に大切な写真が入ってて。凄く困ってるんです」
昨日学校から帰った後、茜は財布が無くなっていることに気づいた。学校に置き忘れたのかと思ったが、次の日学校で探しても見つからなかった。
この店に来る前に、念のため交番にも届けたのだが、警察の人には出てくる可能性は低いだろうと言われてしまった。
「それはお困りですね。わかりました。私でよければ、お力をお貸ししますわ」
「本当ですか!あ、お金は一応、臨時でお小遣い貰ってきたので、その範囲でなら払えるんですけど…力を貸すって、どうやって探してくれるんです?もしかしてここ、探偵さん?」
茜はつい早口になり捲し立てるが、紅はおっとりと首を傾げた。
「あぁ…先ほど説明を忘れてしまいましたね。ここは魔法雑貨店。お困りの方に、1つ魔法の力をお貸しするお店ですわ」
「…はい?」
「こちらの棚に並んでいるお薬を1つ選んでいただき、飲み干して下さい。そうすると、お客様に今必要な魔法が1つ使えるようになるのです。ただし、期限はお客様の問題が解決するまで、または日付が変わるまでとなっております。永遠に魔法が使えるようになるわけではございませんので、ご了承下さい」
茜の困惑した表情に気づいていないのか、紅は淡々と説明を続ける。
これ、大丈夫?この薬って、違法なお薬とかじゃないよね…魔法?魔法って何?いやいや、ないでしょ。魔法とか、ないない。え?でもさ。本当に魔法が使えるようになったら…素敵じゃない。
茜の脳内では色んな声が飛び交っていた。小さい頃は魔法使いになりたくて、箒で空を飛ぶ練習をしてみたり、美少女戦士に憧れて、ごっこ遊びを楽しんでいた茜である。現実的に考える冷静な今の茜と、夢を見る昔の茜がせめぎ合っていた。
「あと、当店ではお金は必要ありません。その代り、魔法を使用したことによって出会った人、出来事には、極力関わっていただくことをお約束下さい」
微笑みを絶やさない紅を見ていると、何故か怪しいと思えなくなっていく茜だったが、言葉の内容はうさんくさいことこの上なかった。
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