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タダより高いものは無いって、おばあちゃんもよく言ってるしな。でも、紅さんは良い人そうに見えるし…。
テレビで詐欺のニュースを見る度に、あんたはいつか騙されそうだから気をつけるんだよ、と言われる茜だが、おばあちゃんの忠告はこのときの茜には届いていなかった。
「く、薬って、どれを飲めばいいんですか?」
棚には赤、青、黄色、緑、様々な色の瓶があり、全て微妙に色合いが違っている。
「お客様のお好みで選んでいただいてけっこうですよ。お客様が最終的にお選びになった薬が、今必要なお薬なんですから」
そう言われ、茜は椅子から立ち上がり、棚にある瓶を眺めた。
赤はちょっと怖そうだし…青はちょっと体に悪そうだし…。黄色にしよう。黄色ならビタミンとか入ってそうだし、体に良さそうだもんね。
悩んだ末、茜は明るい綺麗な黄色の瓶を手に取った。
「では、そちらの薬を一思いに飲み干して下さいませ」
さすがに、瓶を開ける瞬間は躊躇した。しかし、ここまできたら後は勢いである。
茜は瓶を開け、一気に中の薬を飲み干した。
「…えーっと、特に何ともなさそうですけど」
薬自体はほんのり甘く、苦いとか不味いということは無かったし、特に体に変化が生まれたようにも見えなかった。
突然魔法の言葉が頭に浮かんだり、財布の場所が頭に浮かんだりするのかと思ったのになぁ。
ぼんやり考えていたことを見透かされたように、紅はくすりと笑った。
「お客様が選んだお薬は、動物達と話せるようになるお薬ですわ」
「…へ?」
またファンシーな言葉が飛び出し、茜は口をぽかんと開けて固まる。
「あの、私財布を探してるんですけど…探し物が見つかる魔法とかじゃ…」
「いいえ。あの薬は動物達と話せるようになるお薬です。動物達は物知りですから、聞いてみたらいかがでしょうか」
動物と話す。まさかそんなことが出来るのだろうか。戸惑う茜だったが、お金はいらないと言うし、体にも害が無さそうなので、とりあえず外に出て試してみようと決めた。
もはや、半ばやけである。
「えーっと、何だかよくわからないけど、ありがとうございました。とりあえずいってきます」
紅にぺこりと頭を下げ、店の扉に手をかける。
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