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店を出た茜は、とりあえず魔法を試せそうな動物を探すことにした。
商店街を適当に歩いていると、小さな公園にたどり着く。
「あ、ごんた」
近所の子供達から、ごんたという名前で可愛がられている灰色の猫が、公園のベンチでのんびり日向ぼっこをしていた。
「ねぇ、ごんた。私の声聞こえる?」
傍から見れば、猫に話しかけるちょっと寂しい女子高生だなと思いながらも、恐る恐る話しかけてみる。
「お?俺達と話せる人間なんて、この辺じゃ紅さんぐらいなのに、嬢ちゃんどうしたんだ?」
なんと、ごんたがそう言って茜を見たのである。傍からみれば、にゃー、と鳴いたようにしか聞こえないのだが。
「す、凄い!凄い凄い!本当に動物と話が出来るようになってるじゃん!あ、私茜っていうの。よろしくね!」
今にも踊りだしそうな茜に、ごんたは変なヤツだなという目を向ける。
「っていうか、紅さんって動物と喋れるんだ。本当に何者なんだろう、あの人」
店に居たときは、紅の笑顔と雰囲気に完全に流されていたが、紅の謎も店の謎も、ほぼ何も解けていないことに、茜は今気が付いた。
わかったことは、本物の魔法を使えるようにしてくれる、不思議なお店だということくらいだ。
「そうそう、私大事なお財布を落としちゃったんだけど、ごんた知らない?」
魔法が使えるのは日付が変わるまでだと言われているので、さっそく本題に入る。
「財布?知らねぇな。そんなことより、せっかくだから1つ頼まれてくれないか」
あっさり知らないと言われてしまい、出鼻をくじかれる。
「知らないですか…。頼みって何?」
「あそこに、小さい女の子がいるだろ」
ごんたは、器用に前足ですべり台の方を指す。見ると、すべり台の着地点に、5歳くらいの女の子が座り込んでいた。
「あの女の子、さっきまでずっと泣いてたんだけどよ、泣き止んでもあそこから動こうとしねぇんだ。あそこは俺の昼寝スポットなのに、邪魔で仕方ない。小さい女の子はすぐ色んなとこ触ってくるから苦手だし、お前あいつに声かけてくれないか」
財布を探さないといけないから、と断ろうとしたが、紅の言葉を思い出す。
魔法を使って出会った人、もの、出来事には、極力関わって下さい。
「…お約束だから仕方ないか。破ったらどうなるかわかんないし、女の子も心配だしね」
茜はすべり台へと歩き出した。
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