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「ねぇ、こんなところでどうしたの?」
茜の声に、女の子は顔を上げる。泣きはらしていたことがわかる、真っ赤な目をしていた。
「…お母さん、いなくなったの」
「迷子?」
「わかんない。お買い物してて、いなくなったの」
どうやら、商店街で買い物中に母親とはぐれてしまったらしい。再び泣き出しそうになった女の子を見て、茜はとっさにごんたを差し出した。
「泣かないで。ほら、ごんただよ!」
「ごんただよ、じゃねぇよ。放せよ!」
ごんたは全力で嫌がっているが、ここは協力してもらう。
「ごんた!」
女の子はごんたを見ると泣くのをやめ、ごんたをそっと抱きしめた。
思ったより乱暴な扱いではなかったからか、ごんたもしぶしぶされるがままになっている。
「ねぇ、お姉ちゃんとごんたと一緒に、お母さんを探しに行こうか」
「ほんと?」
目を輝かせる女の子とは対照的に、俺の昼寝タイムが…とつぶやく声が聞こえたが、今は聞こえない振りをする。
「本当だよ。お姉ちゃんの名前は茜っていいます。あなたは?」
「ルミちゃん」
「ルミちゃんね。可愛いお名前だね」
褒められた女の子は、えへへ、と笑った。
力が抜けた拍子に、するりとごんたがルミの腕をすり抜け、地面に着地した。
「ごんたも一緒に行くわよね?」
逃がさないわよ、という茜の圧に、ごんたは一言、にゃー、と鳴いた。
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