第三章:宏次の状況

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(ふんっ、冗談じゃない。) 「どうしても家が欲しい」 反対する宏次に、何年も何年もおもちゃをねだるように言い続け 根負けした宏次がしぶしぶ承諾すると、住宅販売業者のうまい話に乗せられて こんな大きい家を建ててしまった。 「私も働いて一緒にローン返していくから」 その言葉も嘘だった。 「パートでもいいから働いて助けて欲しい」 商業高校を卒業して数字に強い宏次が危機感を抱いてそう言うも、持病を理由にして働こうとしなかったのだ。 食い扶ちを減らして先に借金を返さないとーと思った宏次が、妻の実家に 「しばらく妻と子供を預かって欲しい」 と頼むと、妻の嘘を信じた妻の両親が宏次を(ののし)りにやってきたのだった。 宏次の両親も交えての話し合いを何度も行った。 その結果妻の嘘はばれ、更に宏次の母に金の無心までしていたことが発覚した。 宏次は途方に暮れた。 (お母ちゃんのお金までむしり取ろうとしてたのか) 怒りで、愛情も人情もいっぺんに吹き飛んだ。 家の頭金は、双方の親に援助してもらっている。 だから、結果的に宏次は、妻の両親に借金しているということになる。 借金返済は、すべて宏次が行うことになった。 「ボクは何のために生まれてきたのかな。  一生、お金の返済に追われて死んじゃうのかな」 DVDに集中できないまま、宏次がつぶやいた。
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