第三章:宏次の状況

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宏次は高校を卒業した後、銀行に勤めた。 ほんとうは別の道を歩きたかったのだが、苦労している両親に 恩返しがしたかった。 そして両親に、家を購入することを勧める。 「お父ちゃん、家を買おう。ローンはボクも助けるから」 宏次は、20代の頃から 「借金を返す」 という生活を経験していた。 だから借金はこりごりだった。 親の家は、「長男」の責任の気持ちゆえ払った。 それ以上家を購入する必要はないし、両親とはいずれ同居するのだから まさか、自分が新築のローンを組むとは思いもしなかった。 独身の頃は親の家のローンのために頑張り 今は自分の家のローンに苦しむ。しかもあと25年も誰の助けもなしに。 いざとなったら自殺するしかない。 宏次の繊細な気持ちはそこまで追い詰められていた。 だから、恋愛なんてする気なんかさらさらなかった。 しかし、今は優奈の存在が宏次のこころを揺さぶっている。 (ボクに借金さえなければ告白する勇気ができるのに) 「会えない」という状況は、さらに気持ちを熱く燃え上がらせる。 宏次もまた、1年に3日間の片思いを自分だけの楽しみだと自分に言い聞かせていた。
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