第八章:同居

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家族が亡くなったら、残った家族は繁忙になる。 それこそ、悲しむ暇がないぐらいに。 あっという間に49日が来て、あっという間に初盆が来て、あっという間に一周忌。 人は、そうして悲しみを乗り越えていくのだという。 そうして悲しみの大きさを、時間にゆだね、少しづつちいさくするのだ。 そんな優奈のこころの堰を切ったのが宏次の言葉だった。 「最愛なるご尊父様のご冥福をお祈りいたします。  ボクの父も、9年前に他界いたしました。  癌の末期で、ホスピスでの最期でした。  最期、優奈さんのようにお互い「ありがとう」と言い合えなかったのが残念です。  優奈さん、最期に感謝を伝えられてボクには羨ましいです。  今は、充分に泣いてください。そういう「時間」が必要だと思います。」 優奈は父と「ありがとう」と言い合えた。 しかし、 あっという間に入院して、あっという間に重症室に入れられ あっという間に逝ってしまった。 宏次は、「充分に泣いてください」と言ってくれた。 「時間が必要だ」と言ってくれた。 言葉は言霊だ。 宏次の優しさが身に、こころに染み、優奈は父の死後初めて思い切り泣けた。 そしてつい、宏次にメッセージをしてしまった。
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