第八章:同居

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その日を境に、優奈と宏次はよくドライブに出かけるようになった。 優奈は車を宏次の家に停め、宏次の運転で色んな所に連れて行ってもらった。 珊瑚が見える海。 洞窟。 小さな滝が見える渓谷。 「わぁ、きれい。すてき。」 素直に喜んでくれる優奈を愛おしい。心から宏次は思った。 「来たことないの?」 「うん」 いつの間にか敬語はふたりの間から消えていた。 和也は優奈をこうして連れて行ってくれたことはなかった。 花火大会でさえ、「人ごみの中は嫌だ」と言った。 映画を観に行ったときも、「面白かったね!」と喜ぶ優奈に 「優奈とは映画の趣味が合わないな」 と言い捨てた。 そのとき優奈は決めた。 (この人と一緒にはもう行動しない) だから休日もふたり別々で過ごすことが多くなった。 こうして色んな場所に連れて行ってくれる宏次にどんどん惹かれていった。 優奈の笑顔が増えてきた。 それだけで宏次のこころは暖かく、自分の淋しさも忘れるほどだった。
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