第八章:同居

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宏次の家に明かりが灯っていた。 それだけで、嬉しかった。 10歳年上の宏次に、父を求めているのかと考えたこともあった。 しかし、その感情とは違う気がする。 和也に言えない、言わないことでも宏次には話せるのだ。 「ピン・ポーン」 チャイムを鳴らすとすぐに宏次がドアを開けてくれて 「やあ。いらっしゃい」 例の屈託のない笑顔を向けている。 (これだ。この笑顔にコロッとヤラレちゃったんだ) 「あの、これ差し入れです」 と差し出しながら靴を脱ぐ。「お邪魔します」と断りながら。 テーブルの上には・・・・・ 湯豆腐、チェーン店のチキン。 アジの干物。 「ボクね。脂っこいもの食べるとお腹の調子が悪くなっちゃうの。  チキンは別ね。」 照れ隠しのように頭をぽりぽりかきながら、 「さぁ優奈さん、乾杯だ!」 とグラスの中にビールを入れてくれた。 どんな料理が並ぶのだろうと思っていた優奈は、おかしくて笑ってしまった。 「やっぱり優奈さんにはあっさりしすぎ?ピザでも取ろうか?」 気遣う宏次に 「ううん。アジの干物好きだし湯豆腐も。でもこのチキンは初めて食べる」 素直に感想を述べると、 「ええーっ!食べたことないの?沖縄に行くとねぇ、お祝いの席では  必ずっこれが出るんだよ」 いつもの宏次のうんちくが始まる。 そのうんちくの広さに、優奈の世界が広がったのだ。 初めて食べるチキンの美味しさと、宏次との何回もの乾杯に 優奈は楽しい時間を過ごした。
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