第八章:同居

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宏次は優奈に合鍵を渡してくれた。 「いつでも魔法のベッドで寝ていいよ」 優奈が宏次のベッドを「魔法のベッド」とあまりに褒めるので作ってくれたのだ。 優奈は宏次が帰宅する前に家に入り、料理を作る。 そしてお風呂に入り宏次の帰宅を待つのだ。 少しずつ、優奈の持ち物が宏次の部屋に増えていた。 ただ、まだ一線は越えていない。和也に気づかれたら信じないだろうが。 いつも優奈が酔い始め、くすん、くすんと泣き出し 父を思い出してはどんなに淋しいか、悲しいか宏次に訴え 泣きつかれて眠ってしまうというパターンだ。 宏次の手で導かれてベッドまで歩くときもあれば、 宏次にベッドまで運んでもらうこともある。 優奈が目を覚ませば、宏次はもう出勤していて食卓の上には朝食が出来ている。 ヨーグルトとキウイとトマト。そして野菜ジュース。 宏次はいつも冷蔵庫にそれを準備して、お皿に切ってくれている。 そして優奈はそれらを食べ、宏次のベッドでまどろみ、 宏次の晩ご飯の支度をして家に帰る――― これが習慣になった。 「友達の家で泊まった。実家に泊まった」 優奈は嘘つきになった。 そしてそれを和也は受け止めていた。 信じているようにも見えたし、関心がなさそうにも見えた。
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