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ある日、自宅で晩酌をしているときに和也と口論になった。
「誰と遊んでいるのか、相手は知っているんだぞ。
俺が訴えたら奴の人生は終わりだからな。社会的に抹殺してやる!」
すごんだ和也に、優奈は返事が出来なかった。
しかし、会うことはやめなかった。
会えないと気が狂いそうだった。
優奈は既成事実を作った。
実家の手伝いをするようになった。
「実家で泊まる」という理由のためだ。
宏次はもう出世し管理職となっており、優奈の実家には来なくなっていた。
本当ならフルタイムで働けばいいのだろうけれど
いまは1分1秒でも、宏次との時間を作りたかった。
冬になり、灯油ストーブの出番が必要になった。
宏次のベッドで使われる毛布は、まるで雲の中にいるようで
信じられないほど暖かく、幸せな気持ちに包まれた。
優奈も、少しずつ泣かなくなってきた。
遠慮なくけんかし、お互い「こうちゃん」「優奈」と呼び合うようになった。
――――――――
ある晩、ふと宏次が言った。
「優奈、そっちのベッドに行ってもいいか?」
「・・・・・・・・・」
(始めちゃダメ!世間から見たらもう始まっているかもだけど・・・)
「・・・・だめ。今、女の子なの」
「・・・・・そっか。じゃ、だめだね」
宏次はにこっと笑って天井を向いて目をつむった。
その横顔をじっと見つめる優奈。
見え透いた嘘だった。
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