第八章:同居

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ドライブしながら宏次のうんちくを聞くのは楽しい。 その車が軽四でも暖かい。 「優奈、サンゴを見に行こうか?」 「え?寒いからやだ」 「冬の今のほうが、海が透き通って海岸からサンゴが見やすいんだ」 優奈の返事を待たず、ハンドルを切る宏次。 宏次のこんな突然の変更はよくあることだった。 たこ焼きを食べようと話して、たこ焼きやに向かっているのに 滝を見に行ったこともあった。 優奈はこういう予定の変更は嫌いだった。 その日は映画を見に行こうとしていたのだ。 優奈の頭の中は、(どんなストーリー展開かな?)で一杯だった。 なのに宏次はおかまいなし。 当然、優奈はほっぺたをふくらませる。 「ほら、着いたよ」 海を見下ろすほどの高台だった。 ここから、海中が見える岬まで歩くと言うのだ。 「やだ!高いところ怖い!」 高所恐怖症の優奈は嫌がったが、 「大丈夫。手をつないであげるから」 と、強引に連れて行かれた。 あまりの高さに足がすくむ。 「ほら、あそこにサンゴが見えるだろう?」 言われても下を見る勇気もない。
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