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宋助君の安らかな寝顔にはうんざりだった。
彼が私の部屋に持ち込んだ部屋着を洗濯機に投げ入れるのも、スイッチを押して液体洗剤の量を計るのも、もう、嫌だった。
私はかつて一番大好きだった年下の男の低いいびきを聞きながら、彼のトランクスを出来るだけ丁寧に畳んだ。
手首を切る方法は、諦めた。
今、ヘッドホンから流れ出るカート・コバーンのストロークが、自らを私の脳に投獄する。爆笑しながら号泣する歪みが不詳で清涼だった。
死を、美化することは、どうしても出来ないと思った。
終わらないレイプミーが、限られた自由を代弁する。
「ふみにじってくれ」
「僕は特別じゃない」
説得力のある話だ。確実に、私は、オンリーワンではない。宗助君もオンリーワンなんかじゃない。誰も彼も、特別じゃない。
なぜか誰もが、得体の知れない焦燥に毎日毎日押し倒され蹂躙され殴られ、そして誰もそれを知らない。自分から助けを求めようともしない。
レイプミーは静かに終わった。リチウムが流れ始める。
私の身体のリチウムの血中濃度は、具合が悪かったので、きっとこの曲を聴き終えたら、ちょうどいい塩梅になるかもしれなかった。
四階の部屋の窓から、黒々とした闇が街に夜を塗りたくっているのが見えた。
死は、眠りとは違う。
朝がもう来ない。
特別なことじゃない。
ただ、朝が来ないだけだ。
網戸を開け、ベランダに出た。
宗助君が、眠っている。
宗助君の枕元には、彼がさっき脱ぎ散らかした、セックスに邪魔な抜け殻が畳んである。
最後にさようなら、と言おうとしたが、やめた。
一言の遺言も必要ない。
私には、ピストルが、なかったのだ。
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