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檸檬色に瞬く光をまとった姿はまさにあの美術の時間の天使そのもので。
柔らかに波打つ髪、光を受けて自らもほんのりと輝くような白い頬。
紺の制服のセーラー襟とリボン、それにプリーツスカートが風をはらみふわりと揺れる様までもがどこか幻想的で、夢を見ているようだった。
(うゎ…綺麗…)
坂の上の天使に見惚れていると不意に、
「あぁ、やっぱ恭本じゃん」
と、天使はあっけらかんとした口調で言った。
(え…誰…?)
もちろん天使に知り合いはいない。
こんな美しい少女にも。
「え、と…」
「今帰り?」
「あ、あぁ…」
天使がゆっくりと坂を下ってくる。
誰なんだ?誰なんだ?誰なんだ?
頭の中がフル回転する。
俺のことを知っているということは天使ではなさそうだ。
そもそも翼もなく、ローファーの足を地面についているのだ。生身の人間そのものだ。
それから彼女のまとう制服はこの辺りでは見かけないもの。
同じ中学ではないヤツで俺のことを知っている?
「もしかして…真山…?」
「あれ?分かんなかったの?」
俺の眼の前まで来た天使─真山は眉間にしわを寄せ、呆れたように大きな瞳を下げた。
あぁ、このどこか高飛車な表情は確かに真山だ。
真山は3月まで同じ小学校のクラスメイトだった。
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