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8月─初恋
夏休みも折り返し点を過ぎた頃のある日。
山嵜の家を訪ねていた俺は日も暮れかけてきた頃山嵜の家を出た。
夕刻とは言え、昼の間に大地と大気に満たされた熱でたまらなく蒸し暑い。それでも自転車で風を切っている間はいくらか良いのだけど、信号で止まる度に汗が吹き出す。
人気のない小学校の前を通り過ぎ、坂に差し掛かった。この道は中学も小学校も通学路なので学期中の登下校時は人通りも多いのだけれど、夏休みのましてこの時間ともなるとほとんど人の姿はない。
俺は一気に上り切ろうと顔を上げ坂の上を仰ぐ。
と、そこに…
(えっ!!)
視界にふわりと白いものが揺れた。
青々とした柿の葉にすっかり傾いた陽射しは遮られ、街灯ただひとつの薄暗い坂でのことだ。思わず背筋がぞわりとする。
(いやいや!幽霊とかありえねーしっ!)
改めて見返すと、古家の庭を取り囲むあってもなくても変わらないような朽ちかけた柵を背に人影があった。白っぽい服をまとった、でも間違いなく人の影だ。
ふと、この坂の上でふわりと揺れる人影に既視感を覚える。
初夏のあの日、ここで天使に似た真山に逢った─
あの日のことが頭をよぎる。
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