8月─初恋

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 真山はこちらをうかがうように少し顔を上げると、少し腫れぼったい顔で気恥ずかしそうに小さく笑んで見せた。 「こんなところで何やってんだよ?」  訊ねても真山は微妙に微笑むだけ。 「帰んないの?」 「恭本こそ」 「いや、帰るけど…」 「先帰って。気にしなくていいから」  そうは言われてもこんなところでそんな顔、何かないとは到底思えないし、あぁそうですか、と置いていくわけにもいかない。ここは治安の良い町ではあるけど、こんな人気のない薄暗いところに女子ひとり置いていくのも、それこそ恐い目に遭わせてしまうのではと思うと心証が悪い。 「お前っていつもここで会うよな」  何気なく言った一言に真山が反応した。 「ここが一番居心地がいいから」  真山が自分のサンダルの足元に視線を落とす。 「ここに来れば誰かに会えたり、会えなかったとしても会いたい人のことを誰にも邪魔されないでいっぱい考えられるし、楽しかったことも全部思い出せる」  夏の夜風に真山の白いノースリーブのブラウスと長いスカートがはためき、白が街灯の灯りを反射していっそう俺の脳裏で天使の絵とだぶらせた。 「恭本のこと、考えていたよ?」 「えっ?」  驚いて真山を見た。  真山もこちらを見て、擦ってすっかり赤く腫れた瞼のくせに不敵な笑みを浮かべる。     
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