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翌朝。
何となくよく眠れなくて早朝に眼が覚めると、外は夏の早い太陽が白々と上り始めていた。
窓から爽やかな朝の風が入りカーテンを揺らす。
その隙間から窓の外に団地の私道を挟んだ隣の棟がちらりと見えた。真山の家がある棟だ。
(アイツ、ちゃんと帰ったかな?)
真山のふわりとひらめく白い服と長い髪が頭の隅をかすめる。
それから、きらきらと瞬く瞳の涙の粒─
何があったんだろう。
何にせよ真山はあそこにしか居場所がないんだ。
誰かに会いたくて、戻れない思い出を噛み締めて。
誰にも会えなくても、会いたい誰かを思って、何度となくあの坂に来ているんだ。
『恭本のこと、考えていたよ?』
(まさか…)
昨日の真山の言葉がよみがえり、訳もなく頬が熱くなる。
真山のことだ。深い意味はないんだろう。
そうだ、深い意味はない。
自分に言い聞かせる。でないとむやみに期待してしまう。
(期待?)
何考えてるんだ俺は!期待なんてするわけないだろう!
相手はあの真山だぞ!秀才を鼻に掛けた、高慢で鼻持ちならないあの真山だぞ!
そっとカーテンを捲り真山の棟を覗き見る。
それだけで目線が泳ぎ胸の奥がざわつくなんてことは…
(ない!絶対にない!)
目映く朝日を受ける建物を見ていられなくて、俺はカーテンを閉じた。
『恭本に逢えて良かった』
アイツのことが気になってしょうがないのは、あそこに置き去りにしてきたから何かあったら後味が悪いからだ。
俺はもう一度ベッドに倒れ込み、頭までタオルケットに潜り込んだ。
* * * * *
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