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それからしばらくは、俺は時々あの日の真山のことが胸をよぎっては理由のはっきりしない胸の高鳴りにもやもやしたりしていたものの、夏休みの最終週になり塾の夏期講習が始まってからは忙しさにかまけて忘れはじめていた。
その夏期講習も最終日を迎えた。
授業を終え、駅近くの塾から自転車で帰宅する。
夏休みも終わるというのに相変わらず夕方になっても蒸し暑い。
俺は自転車を走らせ、団地のすぐ隣の大きな広場のある公園の脇まで来た。夕空の下、公園の中に流れる小川で水遊びをする子供たちの歓声が響く。
公園の入口を通り過ぎようとした時、不意に低学年くらいの子供たちが駆け出してきた。
咄嗟にハンドルを切る。
と、そこに団地側から出てきた人にぶつかりそうになる。
(あっぶね!)
急ブレーキを掛けると、相手も立ち止まった。
「あ…」
「え…」
眼の前にいたのは真山だった。
(……)
意味もなく高鳴る胸。
何か話さなきゃと思うのに、頭の中が真っ白になっていく感覚。
と、その時、
「へへっ」
(え…)
真山は満面の笑顔を見せる。
そして俺に小さく手を振り、駅の方へと駆け出した。
俺の焦りなんて気付く様子もなく。
(え、何今の…)
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