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あの日の真山の大きな瞳に滲む涙の雫を思い出す。
あんなに心配したのに、こんなしれっとした態度とか…
俺の脇をすり抜けて走り去る真山を振り返る。
ノースリーブの肩から延びる細くしなやかな腕と細身のパンツスタイルの長い脚、走る度に揺れる少しウェーブがかったポニーテール。
俺はただその後ろ姿を無意識に眼で追う。
でも、あんな涼しい態度取られたのに不思議と腹は立たなかった。
(ちゃんと家帰ってたんだ)
安堵、それに…
何かが胸の中で跳ねるような感覚。
大切なものを失くしてしまって必死になって探してようやく見つかった時の嬉しさみたいな。
会いたかった人にやっと会えた時の嬉しさみたいな─
(真山に、『会いたかった』…)
そして俺はようやく素直な気持ちで気付く。
(そうか、俺、アイツのこと…)
夏の終わりの夕間暮れ。
黄金に染まる空が真山を照らし、いっそう綺麗に見せる。
『恭本に逢えて良かった』
そんな言葉にいつしか心を奪われて始まった初めての気持ち。
俺は真山が見えなくなるまで見送ると再び家へと自転車を進ませる。
新たな想いを少し気恥ずかしく感じながら。
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