9月─賭け

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 まばらに向こうから歩いてくる人の中に制服姿があった。  遥か向こうに、小さく。  でもそれは紛れもなくこの町ではあまり見かけない、でも見慣れたあのセーラー服。  胸がとくんと跳ねる。 (真山…)  真山は俺の棟よりひとつ手前の棟だから、真山はここまで来ない。  どうしよう…会いに行ってみるか…?  でもなんて声を掛ける? 「会いに来た」? 「会いたかった」?  いやいや、そんなこと言えないだろう…  俺はほんの数メートルをかなりゆっくり歩きながらあれこれと思考を巡らせる。  が、答えは出ない。 (真山!気付けよ!)  気付けばアイツのことだ、またいつもの調子で立ち話を仕掛けてくるだろう。  それにきっと… 『逢えて良かった。ありがとう』  なんて可愛いことを言うんだ…  が、真山が気付くことがないうちに俺は自宅の角に着いてしまった。  結局俺は真山に声を掛ける決心が着かず、そのまま角を曲がった。  曲がってしまってから後悔する。  やっぱり勇気を出して真山に話しかければ良かった。 「ただいま」  家に着いてから更に後悔する。  後悔した時点でやっぱり引き返したらよかった。  自分の部屋の窓から外を見る。  真山が自宅の棟に入って行くところが見えた。     
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