87人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
まばらに向こうから歩いてくる人の中に制服姿があった。
遥か向こうに、小さく。
でもそれは紛れもなくこの町ではあまり見かけない、でも見慣れたあのセーラー服。
胸がとくんと跳ねる。
(真山…)
真山は俺の棟よりひとつ手前の棟だから、真山はここまで来ない。
どうしよう…会いに行ってみるか…?
でもなんて声を掛ける?
「会いに来た」?
「会いたかった」?
いやいや、そんなこと言えないだろう…
俺はほんの数メートルをかなりゆっくり歩きながらあれこれと思考を巡らせる。
が、答えは出ない。
(真山!気付けよ!)
気付けばアイツのことだ、またいつもの調子で立ち話を仕掛けてくるだろう。
それにきっと…
『逢えて良かった。ありがとう』
なんて可愛いことを言うんだ…
が、真山が気付くことがないうちに俺は自宅の角に着いてしまった。
結局俺は真山に声を掛ける決心が着かず、そのまま角を曲がった。
曲がってしまってから後悔する。
やっぱり勇気を出して真山に話しかければ良かった。
「ただいま」
家に着いてから更に後悔する。
後悔した時点でやっぱり引き返したらよかった。
自分の部屋の窓から外を見る。
真山が自宅の棟に入って行くところが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!