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「女テニって言ったらお洒落で可愛いって言われてる女子が多いじゃん。2組の美人だって噂の転校生も女テニに入ったらしいしさ。そんなとこで高評価受けられるとかフツーに羨ましい話じゃん?」
「興味ねぇし」
そもそも女子に興味ないし、更に、「クール」はどうだか知らないが「カッコ良い」は山嵜の頭の中で勝手に盛られてる可能性が高いのを分かっている。
坂を下り切るとバイパスの高架下の交差点にたどり着く。
俺の家はバイパスを越えた南だけれど、山嵜はバイパス沿いに西へ向かうのでここで別れる。
「ホントにうち来ないの?」
「行かない」
「ちぇ」
「じゃな」
俺は山嵜の方を振り向きもせず交差点を渡った。
小路をいくつか通り越すと、この春まで俺たちの通っていた小学校が見える。
その前を過ぎるとその先は、短いがひどく急な上り坂になっている。
坂の左側は小さな工場の灰色の壁がそびえ、右には人が住んでいるのかいないのかも微妙な古びた民家の木立に埋もれるような庭があった。
庭の坂に面した辺りには若い葉をびっしりと付けた柿の木が植わり、坂はその葉陰で涼やかだ。
坂に差し掛かる。背のリュックが更に重く感じ、前屈みに上る。
「…恭本?」
その時ふと頭の上から呼ばれたような気がした。
(え…?)
坂の上を仰ぎ見る。
(…!!)
柿の葉陰から零れ落ちる眩しい午後の陽光を浴びた人影は─
(天、使…?空から舞い降りた…)
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