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その後、動物との触れ合いを楽しんだ俺らは二人で近くの水道で手を洗い、玲美はパンフレットを開く。
「良し。……じゃあ次はね―――」
それから俺達は様々な動物達を見て回った。
楽しい時間というのは早く過ぎるもので、気がつくと日は沈みかけていた。
動物園の入り口に設置してある夕日に照らされたベンチに二人で腰掛ける。
軽い疲労感はあるが、嫌な感じはせずむしろ清々しい気分だった。
玲美が自販機で買ったスポーツドリンクをちびちびと飲んでいるのを横目で見ながら、自分の気持ちを再確認する。
……俺こんな夢を見るなんて完璧に惚れちまってるな。
元々中学卒業後越してきたのもあり、周りには知人の一人もいない高校生活だった。
目付きの悪さがあだとなり近寄ってくる奴はいない。
自分から話しかけられる程コミュニケーションに長けてはいないせいで、完璧に孤立していた。
そんな時委員決めでたまたま同じ委員になった玲美。
はじめはもじもじとした暗い真面目そうな子ってイメージしかなかった。
……でも同じ時間を、同じ理由で、一緒に過ごす内に。
少しずつ玲美を異性として意識してしまう自分がいることに気がついた。
だが告白なんてして、嫌われたらもう友人としても戻れない。
そう考えてずっと心の奥底に、眠らせていた事。
それが今夢として出てくるか……。
「―――大丈夫?」いつの間にか、隣にぴたりとくっついてきた玲美は吐息すらかかるような距離から俺の顔をまじまじと見る。
……この玲美は俺の妄想の産物なんだ。
だったら。
俺は玲美の両肩を掴む。
もう彼女を直視することは出来なかった。
腕がカタカタと震える。
現実で出来ないならいっそ……。
目を瞑り彼女の唇へ自身のを重ねようとする。
(……俺はアホか)
あと数ミリと言った所で、肩を離し目元を押さえる。
(……ここでやったら、絶対後悔するな俺)
「……動物園すげえ楽しかった。
いつか本物と遊びに来ることに決めたよ。
ありがとう、夢の中の玲美」
改めてそちらを見ると玲美はもういなかった。
それどころか夕日もベンチも、目元を押さえる時まであった筈の物が全て無くなっていた。
俺は真っ白のなにもない空間でぽつりと一人で座っていた。
瞬間、急激な眠気に襲われる。
「……夢で寝落ちって意味分からねえ」瞼が落ちていくのを感じながら俺の意識は途切れた。
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