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私の体に異変が現れたのは高校に入ってすぐだった。
最初は両耳が聴こえづらくなったのがきっかけだった。
大きな病院で検査を受ければ、私は難病に指定されている病気だとのことだった。
日本ではまだ症例が百例と少なく、今のところ治療法はない。
私の病気の進行は早く、夏休みに入る前に入院することになった。
だんだんと歩くことが困難になり、耳は全く聞こえなくなった。
そして自力で食べることさえも出来なくなった。
そして数年も経たないうちに私はほとんど寝たきりの状態になった。
絶望を感じたけれど、私の心の中にはいつもあの日々があった。
私の胸をときめかせる初恋の思い出。
それから私は入退院の日々を繰り返した。気付けば十年の月日が流れていた。
私にとってこの十年は長すぎた。
両親は日々、私が少しでも楽しめるようにと映画を見せてくれたり、小説を読んでくれたりしたが、それが嫌になるときもあった。
なぜなら映画や小説に出てくる主人公は皆、自由で伸び伸びとしているから。
それらは私に沢山の夢を見せてくれたけれど、自分には到底叶えることができない。
上手くいかなくてイライラして子供のように両親に当たってしまうこともあった。
だから自分で死んでしまおうと考えたこともあった。
でも、その度にあなたとの思い出がそんな自分を引き留めた。辛いのは今だけ。
生きていたら、胸をときめかせる瞬間にまた出会えるだろう。そう思わせてくれたのだ。
私に記憶障害が現れたのは病気を発症してから十三年が過ぎていたころ。
多分そのときの私は両親のことも、あの日の思い出も何もかも忘れてしまっていたのだと思う。
今考えると恐ろしいことだ。
記憶障害が回復するのかどうか、誰にもわからなかった。
しかし、私の両親は望みを捨てなかったという。
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