執着

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俺、鈴木修吾は、専門学校でデザインを学び、憧れのクリエイター風間智徳がいる、この『TAO.D.C』に入社した。 俺が入社した頃には、当時よりも会社自体が大きくなっていて、仕事内容は分業化されていた。 憧れの人は、作品を作るよりも営業として活躍していて、現在、制作に携わるのは稀だと言う。 入社して一年半。この関係を始めて、半年が過ぎていた。 本来就きたかった制作部署ではないものの、営業事務として、憧れの人の下に就いて学び、様々な事を吸収していった。 時に厳しくもあるが、的確な指導を受け、新人だった俺も、短期間で戦力として社内でも認めて貰えるようになった。 「鈴木、ちょっと良いか?」 手招きされて、席を立ち、課長のデスクに向かった。 「この資料、あとこれ、まとめといてもらえるか? 急ぎじゃないから、今週中に上げてもらえればいいから。」 手渡された書類の左隅に、女子社員が好みそうな、プラスチックのカラフルなクリップ。 これが俺達の合図だった。クリップを外せばOKのサインだ。 「はい。わかりました。預かりますね。」 受け取った書類をめくるふりをして、外したクリップをデスクに戻した。 一瞬だけ視線を絡ませ、席に戻り、何事もなかったように、仕事を続けた。
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