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「九条さん、なんの用」
「あ? お前に仕事頼みたかったんだけどよ。まあいいや、明日で。お疲れさん、休むなら連絡入れろよ」
「……あ」
データを送信して安堵した俺は、メールをするつもりでそのまま力尽きた。
「そうだ。お前マンション買わない?」
「は? なんの話だよ」
なんの脈絡もない唐突な話に思わず素っ気なく言葉を返すが、彼は突然大笑いしながら事の成り行きを話し出した。
「こないだ内装やったとこあんだろ。そこがひと部屋買いませんか、だってよ。あっはは、ついでに嫁も紹介してくれるらしいぜ」
「あ、そう。よかったな」
いまと同じように、担当営業を笑い飛ばしたであろう九条が、容易に想像できる。余計なお世話もいいところだ。
「ああ、でもお前にも俺にも不要のオマケだから、破格なら買ってやるって言っといた」
「それ、勝手に俺も話の中に含まれてんのか」
「あー、いまうちの事務所でフリーって事になってんの、俺とお前だけだし」
いまだに一人で笑い続けている、九条にため息をつくと、電話の向こうで彼を窘める声が聞こえてきた。恐らく事務の子だろう。
「奈々ちゃんに怒られた。仕事するわ、んじゃ明日頼むな」
突然通話が切れた電話を見下ろし、俺は大きなため息をついた。
「……子供か」
マイペースもいいところだ。九条は自分より年上で上司でもあるが、仕事以外の事で彼を尊敬すべき点が一つもない。
肩を落としてうな垂れれば、立ち上げたままのパソコンから、メールを受信した音が聞こえる。
「買うのもありか」
仕事の資料と共に添付されていた写真に俺は目を細めた。
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