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「あれ広海先輩、今日休みだったの?」
「あ?」
帰ってくるなり、俺を見た三木は開口一番にそう呟き、首を傾げた。そしてその言葉に俺が眉をひそめると、今度は目を瞬かせさらに首を捻る。
「だって眼鏡だし、普段着だから。仕事モードじゃない先輩久しぶりかも」
そう言ってソファでテレビを見ていた俺の背後に立ち、三木は身を屈めて俺の額に唇を落とした。そして鬱陶しげに顔をしかめた俺など、お構い無しに楽しげに笑う。
「ただいま先輩」
「おう、遅くなるんじゃなかったのか」
いつも三木が遅いという日は、大概日付が変わってから帰ってくることが殆どだが、いまはまだ二十三時を回ったばかりだ。
「今日は意外と早くお客さんが引いたから。ちょっと早めに帰ってきた」
「ふぅん」
背後で動き回っている三木の気配を振り返ることなく、曖昧に返事をすれば、ふいに気配が遠ざかっていく。
だが然してそんなことは気にせず、俺は再び目の前の画面に視線を向ける。
「お疲れ様、俺」
しばらくすると三木は、そう一人で呟きながら缶ビールを両手に持ち、俺の横へさも当たり前のようにして座った。
「邪魔くせぇな」
「へへ、広海先輩とこうしているの久しぶりだね」
真ん中に座っていた俺を、押し退けて座る三木に目を細めるが、機嫌のよさそうな顔で笑いちっとも悪びれていない。
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