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「んー、仕事のあとの一杯は格別だなぁ。しかも今日は先輩もいるし」
「……黙って飲め」
ぴったりと横に寄り添う三木からは、嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りがした。
食べ物を扱う仕事をしているので、職場で制服に着替えても髪や服にどうしても匂いがついてしまう。
しかし匂いを気にする俺が先に帰っている時は、こうしてすぐに着替えたり、風呂に入ったりしてから傍に来る。
「あれ、珍しい。先輩からくっついてくれるなんて、明日は雨かな」
「黙れ」
軽く笑い声を上げて、肩にもたれた俺の頭を三木は、壊れ物を扱うように優しく撫でる。あまりそんな風に扱われるのは好きではないが、いまはとりあえず放っておくことにした。
「昼間のメール見た?」
「あ、あーなんかあったけ」
昼飯は食ったか、仕事はちゃんと行けたか――そんなようなメールだった気はした。内容は覚えていないが、添付されていた写真は覚えている。
「買い出しに出たら、通り雨が降ってさ。やっぱり今時の携帯って優秀だよね。綺麗に撮れてたでしょ?」
確かに三木から送られてきた写真では、晴れ間に虹が綺麗にかかっていた。
――かかってはいたが、それをわざわざ写真に撮って送ってくるその感覚は、相変わらず俺にはよくわからない。
多分きっと俺ならば、なに気なく通り過ぎてしまうだろう。
「でさ、帰り道にちっちゃい猫に会ったんだけど。これがまた先輩にそっくりでさぁ。つれないの」
「……」
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