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虹のしばらくあとに送られてきた写真では、三木の指先に真っ黒な毛玉みたいな子猫がぶら下がっていた。
それを思い出しているのか、ニヤニヤと笑う男は俺の頭を勝手に撫で始める。
「うぜぇ」
「へへ、でも先輩の方がやっぱり可愛い。もっとぎゅっとしていいですか?」
「あ?」
俺の返事など待たず、アホみたいに顔を緩めて俺に抱きつく三木。けれど文句を言うのも面倒くさいので、レトリバー辺りにじゃれつかれていると思って、放っておくことにした。
「先輩、今度デートしよう」
「は?」
急に耳を伏せた大型犬は、人の身体を抱きかかえて、じっと目を覗き込んでくる。
「たまには一緒に出かけたいなぁって思うんですけど。駄目、ですか? 俺達あんまりと言うか全然ないでしょう、デートしたこと」
その視線を捉えながら、俺はふと記憶を巻き戻してみた。
そう言えば、すれ違いばかりでロクに一緒に出かけたことがなかった。
「……時間があればな」
「やった! 俺が先輩の休みに合わせるから、約束ですよ」
「覚えてたらな」
こんな些細なことで大喜びするとは、単純な奴だ。でもそんなことなら――。
「それ取れ」
「……どれ?」
「そこの青い封筒だ」
のし掛かるように抱きついている三木を押して、顎でテーブルを示せば、目を丸くしながらキョロキョロと視線を動かす。そして俺を抱えたまま、テーブルの隅で新聞に紛れた青い封筒を手に取った。
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