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もしも、もしもの世界。
いまある現実とは違う道を歩いていたら、幸せだったかもしれないと思ったことはある?
深夜一時。突然嫌がらせかと思うほど、インターフォンのチャイムが何度も部屋に鳴り響いた。眉をひそめ、立ち上がるのを躊躇っていると、二度、三度ドアを叩かれたあとに、玄関扉の向こうで鈍い音が聞こえた。
その音の原因に気づき、俺は大きなため息をついて渋々立ち上がった。そして鍵を外し扉を押すが、なにかがつかえて開かない。
仕方なく力任せに扉を押してみるが、それにもたれる重量に十五センチほど隙間が開いただけだ。
「おい、こら三木。邪魔だ身体どけろ、扉が開かねぇ」
隙間から覗くと赤茶色い癖っ毛の頭が窺える。その頭に向かって声をかけるが全く反応がない。
「寝んな、玄関の前で寝んじゃねぇ。いま起きなかったら二度と家に入れねぇぞ、いいんだな」
扉を蹴飛ばしその向こう側にいる男を揺り起こせば、小さく身動ぎして顔を上げた。ぼんやりとした表情のまま、こちらを見上げる三木に俺は大きく息をついた。
「酔っ払いが、早く家に入れ」
のそのそと立ち上がった三木を、今度は俺が見上げる。普段から凡庸とした顔が、酔いでますます冴えない顔になっているが、まぁこれは愛嬌だろうと、ため息混じりに肩をすくめた。
するとますます目の前の顔は、情けないものに変わった。
「広海先輩、ただいま」
「おう」
そう短く答えてやると、三木は突然腕を伸ばし俺の首にしがみついてきた。
「おい、とりあえず家に入れ……どうした、誰かにいじめられたか」
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