スペア

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「春日野先輩。俺、好きなんです先輩のこと」 「は? お前、誰」  やたらと背の高いボンヤリした顔の男――それがあいつの第一印象。  そして夏の暑さで頭でもやられたのだろうかと、思わず哀れんだ視線を向けたことをなんとなく覚えている。  けれどあいつはちっともそんな心情に気づくことはなく、真剣な顔をして俺をじっと見つめていた。  あれは確か大学四年、夏の初めだった。  そしてそれからあいつは――三木は気が付けば傍にいた。  最初は驚いていたほかの奴らも、そんな状況が面白くて仕方がなかったのか、あいつの行動を助長するようなことばかりしていた気がする。  いま思えばあの時、俺と三木が付き合う付き合わないと、賭けでもしていたのだろう。  しかしやはり何度思い返してみても、お互いそんなやり取りをした覚えはない。 「先輩、広海先輩」 「……」 「風邪引くよ」  ふいに身体を揺さぶられ、夢うつつな意識が浮上する。重たい瞼を持ち上げれば、眉間にしわを寄せた三木の顔が目の前にあった。  目を覚ました俺に何故かほっとした表情を浮かべる、その反応を訝しく思いながらも、俺はいまだボンヤリとする思考のままあくびを噛み締めた。 「一人で飲んでたの? 今日電話したんだけど、先輩から全然連絡ないからちょっと心配してたんだ」 「事務所に鞄忘れた」 「そっか」  テーブルの上に転がった空き缶をまとめて、キッチンへ運ぶ三木の背を目で追うと、ふいに視線を感じたのかこちらを振り返った。 「どうしたの? なんか俺の顔についてる?」
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