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「別に……お前結構飲んでるだろ」
首を傾げた三木に肩をすくめて、ソファに預けていた身体を持ち上げれば、驚いた顔をして目を瞬かせる。
しかし本人が気づいていないだけで、話し方でどれだけ飲んでいるかすぐに分かった。
飲んでる量が多ければ多いほどに、三木はまるで素面のようになり、普段辛うじて残っている敬語がスッカリ抜け落ちるのだ。
「水」
「あぁ、うん」
目を瞬かせている三木に冷蔵庫を顎で示せば、慌ただしくペットボトルを手に戻ってきた。
封を開け手渡されたミネラルウォーターを飲み下すと、ボンヤリしていた頭が徐々にすっきりして来る。
買ってきたビールだけでは足りず、家にあったワイン一本と日本酒を飲んだのはさすがに飲み過ぎか。
「先輩、キスしていい?」
「……吐くぞ」
「それはちょっとやだな」
目の前に立っていた三木が、身を屈めて顔を寄せてくる。そして俺の言葉に苦笑いを浮かべながらも、ゆっくりと唇を合わせそれを甘噛みすると、深く中へ押し入ろうとした。
しかし俺は咄嗟に、目の前の身体を勢いよく押し戻していた。
「先輩?」
あまりにもはっきりとした俺の拒絶に、三木は驚きを通り越して唖然とした表情を浮かべている。
「臭い」
「え?」
「女臭い」
思いきり顔をしかめた俺に、三木は間の抜けた顔をした。言っている意味がよく分かっていないようだ。
けれど普段から嫌なくらい鼻が利く俺には、間違いようがないくらいはっきりと、女物の香水の匂いがした。
三木の肩口から――。
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