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お互いの不安定な距離感。なぜ一緒に居るのか、なぜ俺は三木の手を離さないのだろうか。はっきり言って自分でもよくわからない。考えたこともない。
しかし人の言葉に我に返る。
自分にとってこの男は、本来ならば相容れない性格なのだ。けれど不思議なほど苦もなく傍にいられた。
それは三木の言葉を借りるならば――嫉妬するくらいは好き、と言うことなのだろうか。
「えっと、こ……恋、人? ですよね? 俺だけ? 思ってるのって俺だけ? これって図々しい感じですか?」
「恋人、ね」
いままで付き合おうと言われたことも、言ったこともない。好きだなんて俺は一度も言ったことがない。
それでもこの関係はそう呼ぶのだろうか。
「えっと、じゃぁ飼い主と飼い犬?」
「……馬鹿だろうお前。ったく、眠いんだよ俺は、さっさと風呂入って寝るぞ」
本当にこいつが犬ならば、長い尻尾が垂れて股の間に隠れてしまいそうな勢いだ。ため息混じりに、そんなデカイ駄犬の首根っこを掴むと、脱衣所に引き摺り込む。
俺達の関係性がどんなものなのか、深く考えるのはやはりやめることにした。
ただ言えるのは、このしょぼくれた男は俺にとって、代わりの利かない人間だということだけ。
いまはそれだけわかれば充分だと思った。
[スペア / end]
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