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首に巻きついてきた腕をそのままに、三木の身体を玄関に引き入れると、俺は扉を施錠しそのまま歩き出した。
「先輩待って、靴脱ぐ」
引き摺られるように家に上がりかけて、三木は慌てて靴を足で蹴飛ばし玄関に転がした。
「酒くせぇぞ」
首や頬に顔をすり寄せてくる三木に、思わず顔をゆがめる。だが後ろの男は小さく返事しながらも、背後霊の如く背中に張り付いて離れない。
仕方なく三木を無視して、俺は先ほどまで座っていたリビングの一角に腰を下ろした。
「いま忙しいんだ?」
テーブルの上にあるノートパソコンを覗きながら、三木が小さく呟く。
「いや、今日はもういい」
座ってもなお離れる気がないらしい背後霊は、俺を背中から抱え込むようにして背後に座っている。腰に両腕を回し、顎を肩に置かれている状態で、どうやって仕事をしろと言うのだ。
ため息混じりにパソコンの電源を落とし、それを閉じた。
「今日、ダチの結婚式だったんじゃねぇの。なにそんな通夜みたいな顔してんだよ」
そうだ、今日は朝から慌ただしく準備をしていた。
いつもは癖毛なんだか寝癖なんだか分からない頭なのに、今日はしっかりセットされている。普段着ることの少ないスーツがさらに珍しくて、馬子にも衣装だと言ったらにやけた顔しやがった。
「先輩好き」
「答えになってねぇ」
「俺はずっと広海先輩が好きだよ」
抱きしめられてるんだか、抱きつかれてるんだか分からないくらいに、ぎゅっと三木の腕に力がこもる。
その様子に俺は視線を落としため息をつく。
「なんか言われたか」
気落ちしている理由がなんとなく分かった。
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