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「ごめん」
「でも! 喧嘩ばっかりしてるって辛くない? 悲しくない? ひどいよそれ」
「……えっと」
どうしても俺の断りの言葉を受け入れたくないのか、またすかさず少し語気の荒い声が返ってくる。でもいくら気持ちはわかっても、こちらはやはりどうしようもできない。
「まあ、確かに喧嘩はよくするし、もちろんへこんだりもするけど、それでもいまは広海先輩しか好きになれないから」
気が強くて気まぐれで、あんまり甘い雰囲気になることは少ないけど――それでもなに気に優しいし、俺のことを少なからず想ってくれるそんな一面をたまに見せてくれる。
それに俺はそんな、ちょっとツンデレな広海先輩が好きなのであって、ベタベタに甘くて素直で可愛い先輩は、そんなに求めてない。
別にマゾなわけじゃないけど、あの広海先輩だから好きなんだ。
「瑛治くん優しいから、いいように扱われたりしてるんじゃない?」
ムッとしたのか、頬を膨らませ僕を見上げる彼女。
多分、世間一般から見ても、彼女は可愛らしい部類なんだと思う。
胸元まで伸びた綺麗にカールした栗色の髪も、整えられた指の先も艶やかで、派手さもなく控えめな感じの装いやメイクも客観的に見ればランクは高い。
でもどこか自分でそれを心得ているような雰囲気が、仕草や口調などから見て取れる――それが若干、俺は苦手だった。
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