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マンションの周りにも、何軒か飲食店はあったような気はする。
「先輩はなにが食べたいです?」
「なんでもいい。お前が美味いと思うもの」
「俺?」
想定外の答えにうろたえれば、前を歩いていた広海先輩が立ち止まりこちらを見上げる。
「お前の飯に慣れると外で食ってもあんまり美味くねぇんだよ。だからお前が食って美味いもんならなんでもいい」
ぼそりと独り言のような声で呟かれた言葉に、思わず顔がだらしなく緩んでしまった。
それはどこで食事をしても、俺の作るご飯が一番美味しいと言われたようなものだ。
決して餌付けたつもりはないが、胃袋を掴むとはこのことかと、にやにやしてしまう。
思えば一緒に暮らすようになってから、あまり外食をして帰ってくることがなくなった。
どんなに遅くとも、帰ってきてからなにかしら俺の作ったものを口にする。
「広海先輩っ、愛おし過ぎる」
「ちょ、こら待て、抱きつくなバカ犬」
なに気ないこと過ぎて気づかなかったけれど、そんな意味合いが含まれていたなんて、幸せ過ぎて、広海先輩が愛し過ぎて、俺の尻尾は振り切れんばかりだ。
人の行き交う道の真ん中で勢い任せに抱きついたら、迷惑そうな鬱陶しそうな顔をされたが、無理やりき剥がされることはなかった。
でもそれに調子に乗って頬にすり寄ったら、肘が思いきり俺のみぞおちに決まった。
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