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「げふっ」
「調子に乗るからだ。おい、それより腹減った」
みぞおちをさすり、肩を落とした俺を横目に見ながら、不満をあらわにして広海先輩は口を引き結ぶ。
ああ、その柔らかい唇に触りたい――なんて妄想に浸りそうになったら、鋭い視線を向けられて現実に返る。
いい加減、空腹を満たしてあげないと、本気でキレそうなところまで来てるかもしれない。
とりあえず思いつく限りの店を頭に思い浮かべて、俺は急いでそれをふるいにかけた。
「行きましょうっ、美味しいご飯屋さん」
そしてピンときた店に俺は当たりをつけて、コートのポケットに突っ込まれていた手を取って、大股で歩き出した。
半ば引きずられる形になった広海先輩の、焦ったような声がしたが、とりあえず俺は目的地に向かい歩みを進めた。
結果――犬のくせに猪突猛進だとこっぴどく怒られた。
目的を決めたら前しか見えなくなるのは、昔から持っている俺の悪い癖だ。
しかしこのおかげでこうして今、広海先輩と付き合ってるのも事実。当たって砕けろ精神で告白したのだから、あの時の俺は勇猛果敢だ。
「先輩、美味しい?」
「ん、美味い」
嬉し恥ずかし初デートだったが――あれこれ悩んだ末、おしゃれさは捨てた。
とりあえず彼の腹を充分に満たそうと、美味しさではダントツの定食屋を選んだ。
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