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でもいいのだ。
きつく当たられるのは、これでいて彼の照れ隠しなのだ。その証拠に、俯いて髪の毛で隠れた頬がほんのり赤い。
「この近くに先輩が好きそうなバーがあるんです、行きません?」
「ん、食ったらな」
俯いたままそう返事をする広海先輩に、残念なくらい俺の顔は緩みっぱなしだ。
誰がどう見ても、可愛いというよりもカッコイイの方が当てはまるのだけど、俺の目には可愛いなぁとしか今は映らない。
こういう時に押していくと、かなりいい感じになることが多いのだが、今日はまだまだデートを楽しまないともったいない気がする。
普段見られない彼が見られるようなそんな予感がした。
のだが――店を出てしばらく歩いたところで、思わず俺は「あっ」っと呟いてしまった。そして目の前から歩いてくる二人連れもまた、目を丸くして同じように驚きの声を上げた。
「嘘ぉやだっ、瑛治さん、偶然だねぇ」
「あ、うん、そうだね」
俺の顔を見るなり喜びをあらわにし、ひらひらと手を振る女の子に思わず、引きつった笑いを返してしまった。
そして隣の広海先輩は、そんな彼女の親しげな様子が気に入らなかったのか、眉をひそめ、ほんの少し気配がひやりと揺らいだ気がした。
「小宮さんと城戸さん、今日は一緒だったんだ」
急に現れた二人の同僚に戸惑いながら、とりあえずこの場をやり過ごそうと俺は当たり障りのない会話を持ちかける。だがどこで切り抜けるか、難題で頭が痛くなってきた。
「そうなのぉ、詩織と一緒にご飯してたの」
「……」
にこにこと笑みを浮かべている小宮さんの横で、驚きをあらわにしている城戸さんは、こちらをじっと見つめ、口を開かない。視線を向けると、気まずい空気が俺と彼女の間に広がる。
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