シアワセ

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「俺はいまが一番幸せだからいいんです。でも、先輩がそうじゃなかったらって考えたら」  自分で言いながら、一気にテンションの下がり始めた三木に俺は苦笑いを浮かべる。 「世界中探してもそんな物好きはお前くらいだぞ」 「先輩のよさを知ってるのは俺だけでいいんです」 「だったらもうちょっと俺の気持ちも尊重しやがれ」  全く人の気持ちを無視した言い分だ。誰が興味のない奴に好き好んで抱かれてやるか。俺にだって選ぶ権利はある。 「先輩好きです」 「なにどさくさにまぎれて押し倒してんだ、こら」  抱きつかれたまま身体を倒されて、俺は仰向けに床に転がる。人の言葉を無視して、首筋に顔を寄せる三木の肩を叩くが、びくともしない。  そしていつの間にかシャツを捲り上げていた手が、その内側に入り込み、無遠慮に人の身体を弄り出す。 「三木、ちょっとこっち向け」 「……? って、痛っ!」  首を傾げ顔を上げた三木に、間髪入れずに頭突きをかませば、額を押さえて床に転がった。そしてその隙を見て立ち上がると、俺は横たわる身体を跨ぎ越し、キッチンの冷蔵庫を開く。 「先輩っ、愛がないです」 「馬鹿が、愛の鞭だ。さっさと風呂入って酔い醒まして来い」  冷蔵庫から取り出した、ミネラルウォーターのボトルを投げ、俺はもの言いたげな三木に目を細めた。 「超特急で行ってきます」  ボトルを受け止め慌ただしく立ち上がると、三木は足をもつれさせ、あちこちにぶつかりながら風呂場へと消えた。 「手間がかかる奴。余計なことばっか考えてんじゃねぇよ」  もしも、もしもの世界。  いまと違う道を選んだとしても、自分はきっといまと同じ道にたどり着いている。  ――それがきっと一番の幸せ [シアワセ / end]
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