1195人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺はいまが一番幸せだからいいんです。でも、先輩がそうじゃなかったらって考えたら」
自分で言いながら、一気にテンションの下がり始めた三木に俺は苦笑いを浮かべる。
「世界中探してもそんな物好きはお前くらいだぞ」
「先輩のよさを知ってるのは俺だけでいいんです」
「だったらもうちょっと俺の気持ちも尊重しやがれ」
全く人の気持ちを無視した言い分だ。誰が興味のない奴に好き好んで抱かれてやるか。俺にだって選ぶ権利はある。
「先輩好きです」
「なにどさくさにまぎれて押し倒してんだ、こら」
抱きつかれたまま身体を倒されて、俺は仰向けに床に転がる。人の言葉を無視して、首筋に顔を寄せる三木の肩を叩くが、びくともしない。
そしていつの間にかシャツを捲り上げていた手が、その内側に入り込み、無遠慮に人の身体を弄り出す。
「三木、ちょっとこっち向け」
「……? って、痛っ!」
首を傾げ顔を上げた三木に、間髪入れずに頭突きをかませば、額を押さえて床に転がった。そしてその隙を見て立ち上がると、俺は横たわる身体を跨ぎ越し、キッチンの冷蔵庫を開く。
「先輩っ、愛がないです」
「馬鹿が、愛の鞭だ。さっさと風呂入って酔い醒まして来い」
冷蔵庫から取り出した、ミネラルウォーターのボトルを投げ、俺はもの言いたげな三木に目を細めた。
「超特急で行ってきます」
ボトルを受け止め慌ただしく立ち上がると、三木は足をもつれさせ、あちこちにぶつかりながら風呂場へと消えた。
「手間がかかる奴。余計なことばっか考えてんじゃねぇよ」
もしも、もしもの世界。
いまと違う道を選んだとしても、自分はきっといまと同じ道にたどり着いている。
――それがきっと一番の幸せ
[シアワセ / end]
最初のコメントを投稿しよう!