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眠りの狭間。漂う意識の隅で微かに戸を引く音がした。
それは気配を消して、足音も立てぬようこちらに近づいてくる。けれど俺は夢現ながらも、その存在を確かに認識していた。
「あれ、起きてました?」
「起きてたんじゃねぇよ。起こされたんだ」
ベッドの脇に立ったその人物を薄目で見上げれば、三木が目を見開いて驚きをあらわにする。
だが俺が起きたのを知ると、立ち尽くしていた男は躊躇いがちにそっとベッドの端に腰かけた。その重みでほんの少しスプリングが軋む。
「ごめんなさい。てっきり寝てると思ってたんで」
「……」
ぼんやりとした視界に三木の姿が映った。コンタクトを外しているのではっきりとは見えないが、恐らくもう仕事へ行くのだろう。
既にジャケットを羽織り身支度を調えていた。
けれど跳ねた髪先は相変わらずだ。
以前もう少し髪にも時間をかけろと言ったが、身繕いよりも睡眠の方が最優先だと開き直られた。
「なんだよ。仕事じゃねぇの」
「ちょっと顔だけでも見ていこうかと思ったんです」
いまだ眠気が覚めない俺は、髪を梳き撫でる三木の手がむず痒く、小さく唸りながら布団を頭から被った。
「あ、酷い」
「うるせぇ、起こすなって書いて置いただろ」
明け方まで仕事をしていて、こうして布団に潜り込んだのは、だいぶ空が白んできた頃だった。
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