その1

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 山の麓に住むヤギさん一家は九匹家族です。  お父さんヤギは、七匹の子ども達を養うため、春から秋までの間、山を離れた遠くの村に出稼ぎに行ってます。  一家の子ども達を守り、育てるのは、お母さんヤギの仕事です。  七匹の子ヤギ兄弟は、まだまだ幼く腕白で、お母さんの目が届かないことも少なくありませんでした。 「あれ……ボクのオヤツがないよぉー」 「チビはノロマだから、みんなで食べちゃったよ!」 「そんなぁー!」  身体の小さな末っ子ヤギにはディランという名前がありましたが、兄弟達は小バカにして『チビ』と呼んでいました。  チビは、オヤツをお兄さんヤギ達に食べられたり、オモチャを取り上げられたりしたので、しょっちゅう泣いていました。 「あらあら、ディランはまた泣いているの?」  お母さんヤギは、そんな末っ子のことが心配でした。 「だって……だって……ボクのオヤツがないんだもん……」 「仕方のないお兄ちゃんたちねぇ……」  お母さんは、食器棚の一番上の段から、少し残しておいたクッキーを二枚取り出して、末っ子に渡してやりました。 「……ほら、お食べ。お兄ちゃんたちには内緒よ」 「うん! ママ、ありがとう!」  チビはニッコリ、涙を拭いて食べました。 『……チエッ、まただよ』 『ママはチビには甘いよな』  こっそり覗く兄弟達が、苦い顔でヒソヒソ愚痴をこぼします。  甘えん坊の末っ子は、他の兄弟達の目には、ママから特別扱いされているように見えていたのでした。 -*-*-*-
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