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桜
またこの季節になったなぁ
大学で働いて3回目の春
敷地内の桜が見頃を迎えていた
雲がなく澄み切った青い空の中で舞う桜
美しくて儚くて
このときばかりは日本で生まれてよかったと日本美を堪能するのだった
それにしても今日は空の色が素晴らしい
曇り空に桜は色がぼやけてしまうが
淡い白ピンクが映える何も悩みがないような青だ
ぼんやり思いに浸る中
後ろからカツカツとヒールの固い音がして
急に現実に戻る
「おはようございます」
すれ違いざまに挨拶を交わしたのは課長だった
文科省から出向で来ている
いわゆる「できる」女性で
母親業もあり、忙しそうに生きている
自分は出世に興味もないしできないだろうが
このまま大学で働き続けて
誰かと結婚して子育てもすることになったら待ってる現実の姿だ
人生のルートが見えると
それから逸れたくなる生き方をしてきた私は
迫りくる安定から逃げたくて
そろそろ次の生き方を探していた
桜も3回見たし
ほんの少しの恩は返せただろう
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