先輩は私たちのヒーローだ。

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「お邪魔する」  だけど私の一人だけの特別な時間は、ある日壊された。少し開いた窓の窓枠に大きな手が現われたから。 泥だらけのユニフォームで、先輩は音楽室の窓を開けると泥だらけの靴を手に持って入ってきた。 「え、ええ? 近衛先輩っ」 「……俺のこと、知ってるの?」 「だって」  甲子園常連校のうちの高校は、今お祭り騒ぎだった。あと一勝で決勝。  近衛先輩と言えば、歴代野球部部長の中で一番期待されてるとか言われてるし。 「まあ、そっか。じゃあ悪い。15分寝かせてくれ」 「え、ええええ?」  近衛先輩が、いつのころか部活の休憩時間に音楽室に侵入することが増えてきた。  私は奏でる。先輩はつかの間の平穏の中、帽子で顔を隠して眠っている。  埃臭いこの音楽室の中が、太陽と土と汗のにおいがする。  それが心地いいと思うのと同時に、先輩の前でピアノを弾くのがいつの間にか心地よくなっていた。
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