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「ツキヤ?どうした?」
「ん?あ、なんでもない…こういうの見てると宇宙を感じるな。と思ってさ…時間が動いてるのがわかる」
気持ち悪さを飲み込んでそう答えた。
早送りして、早く元の月に戻ってくれ。と願いながら…。
けれど、血色をした月は時を止めたように長い間浮かんでいるような気がする。
急に夜風が冷たく感じた。
「ヒロ、マヒル寝かせて。冷えてる」
「あ、おぉ、ホントだ。デコ冷たい」
ヒロはマヒルの額を触って、小さな子にするように頭を撫でてから抱き上げた。
僕は、ベランダの隅から、長い間置きっ放しになっている園児が座るくらいの椅子を二つ並べて座った。
もう座ることなどない、でも、其処にずっと置いてある。
部屋の中は、そんな物で溢れていた。
昏昏と眠るマヒルの上にも、時間は流れているのに。
一秒一秒の時の刻みと共に、夜空に血が滴り落ちて、月食が解かれて行く。
「これいつ戻んの?」
長い脚を伸ばして椅子に腰掛けているヒロに尋ねる。
「ん、午前0時過ぎ?月食って、ちょいちょいあるんだな。又、半年後にあるって。ただ、こんなに綺麗に見えることはそうそうないらしいけど」
「ふぅん」
「何、その興味なさそうな。この神秘的な一瞬に立ち会えたっつうに」
「一瞬じゃないし」
「機嫌悪い?」
「別に」
「って言う時は大抵悪いな」
「機嫌じゃなくて、気持ち悪いの」
「は?」
「ブラッドムーンなんて、気持ち悪い」
「いい子いい子」
僕の頭を撫でて笑った。
「何それ」
「いや、なんとなく。俺なりに気を遣ってるっていうか…」
「へぇ」
「失礼な」
「ごめん。知ってる」
知ってる。ヒロがいつも、マヒルと僕に同じように接していること。
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