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刻々と月が元に戻って行く。
何事もなかったかのように、すました顔で。辺りに散りばめられていた小さな星々は、ゆっくりと月の光に溶け込んでいった。
「人の気も知らんと、こいつはよく寝るな。あ、ああ、そういうことな」
ヒロは、納得したようにうんうんと頷いた。僕は、ヒロの一寸した思い遣りに甘えている処があった。
眠り続けるマヒルを受け入れられているのも、多分ヒロのお蔭だ。
「何?」
「顔、青ざめてたの治ってるじゃん」
「はぁ?青ざめてた?」
「ん、さぁて、帰るか、あぁ、明日物理小テストやるって言ってたっけ。ダリィ」
「もう今日だし」
「あ、今日じゃん。英語、英語、体育、物理ってホント、やだ。体育やって飯食って、絶対寝るし」
「絶対はヒロだけだろ」
「いやいや、クラスの半分は寝てるな」
「寝てるのによく半分ってわかるね」
「うるさい。ああ、いつもの月に戻ってんな。ん、じゃ、お大事に。おやすみ」
ヒロは親指を立てて、にこっと笑った。
「ん、おやすみ。ヒロ…」
「ん?」
「いつも…ん…ありがと」
「はっ、なんだ?泣そうな顔して。食われたわけじゃないから、安心して寝ろよ。おやすみぃ」
「ん…」
ヒロの笑顔を見送って、玄関の鍵を掛けると、二階で何か軋む音が聞こえた気がした。
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