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ふわっと琴浦があくびした。
「忙しかったんですよね。電話ありがとうございます」
『声聞きたかったからいいんだ。こちらこそ起きててくれてありがとう』
「さすがにまだ寝ませんよ」
『まだ風邪も治りきってないだろうから早く寝なさい』
「はい」
『よろしい。じゃあおやすみ』
「おやすみなさい」
これがお付き合いというものなのかと、じわじわと顔をゆるませる。
(どうしよう。眠れない)
寝なさいと言われているので律儀にベッドに潜り込んだが寝返りばかりうっていた。
起き上がってベランダに出て見るとひんやりした風が髪を揺らす。
他のひとはこういう時どうするのだろう。そうか、これがつまり好きになるということなのか。
自覚すると今度は恥ずかしくなってしまった。もう琴浦は眠っただろうか。
琴浦と毎晩の電話とメッセージのやりとりをするようになって3日。桃子が台車に古紙を載せてエレベータを待っていると隣に琴浦が立った。
「天野さんかなって思ったらそうだった」
「お疲れ様です。訓練終わったんですね」
「警備の人数合わせに呼び戻されたんだけどいらなくなったみたいで。そうだ。今日これからタルト食べに行かない?」
こくんと頷くと、琴浦もうなずいて微笑む。
「これ片付けたら終わりです」
「じゃあ下で待ってる」
「わかりました」
琴浦はくるりと周囲を見回し、エレベータホールに二人きりなのを確認すると、台車の取っ手に乗せていた桃子の手に自分の手を重ねた。
「フレンチじゃなくてごめんね」
「タルト楽しみにしてます」
「…うん」
なにか言いたそうにしていたが、琴浦はそれ以上何も言わず非常階段を降りていった。
エレベータはまだ来ないのかと表示ランプを見上げると、隣に誰かきた。見ると藤田が立っている。
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