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ぐるっと二人の視線が桃子で交錯する。
「え、選ばさせていただきました」
心臓が口から飛び出していくような気持ちだった。言い終えた瞬間、貧血になったときみたいに頭がクラクラする。
「…邪魔でしたか」
「お話できてよかったです。天野さんの上司に報告できたわけですから。これからは見守ってください」
「…失礼」
コーヒーを半分残して藤田はさっさと帰っていった。最後は桃子のことを見ようとせず、ただ琴浦のことを睨んでいった。
「怖かったね」
ヘラヘラしている琴浦が運ばれてきたタルトに集中するのを横目に、桃子は肩の荷が一つ降りたような気持ちになっていた。
「おいしい!食べる?」
「食べる」
「お、やっと打ち解けてきた?」
「これでもかなりがんばってて」
「じゃあがんばらなくてもいいように、ひとつ進んでみる?」
「ひとつ?」
琴浦がフォークに刺した切り分けたタルトを差し出す。食べろというのかとぱくりと食いついた。
「お、くるねえ」
「じゃあ琴浦さんも」
同じようにフォークにさして差し出すと、琴浦はじーっと桃子を見ながらタルトを食べる。
「美味しい」
「うん」
二人でもぐもぐ口を動かしながらタルトと幸せを噛み締めた。
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