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わからないなりにわかること
あれから距離は縮まっていったように思う。桃子は琴浦と一緒に出掛けたり、一緒に食事したりするようになった。初めて手を繋いだ日琴浦は別れ際なかなか手を離してくれなくなかった。
桃子の最寄り駅のホームでのことだ。
「どうしたんですか?」
「もう少し一緒にいたいなって」
「電車なくなりますよ」
「うん。言ってなかったけど、明日も休みで」
きょとんと見上げていると、琴浦が居心地悪そうに目を泳がせた。
「一緒にいたいんだけど、君はなんと言ったらわかってくれるのかなあ」
「一緒に」
すでに一晩一緒に過ごしたことがある。ただそれは、桃子が風邪をひいていたから看病するために連れ帰られたというだけだ。
じっと琴浦の目が桃子の目を覗き込む。それがどういう意味を持つのか桃子にはよくわからなかった。ただそれに幸福を感じてはいる。
「一緒にいたいのは私も同じだったりします」
ぽつりとそういうと、琴浦が目を丸くして桃子の手をぎゅっと握った。
「うちにおいでよ」
「行っても大丈夫ですか?」
「さあ。君はもう風邪をひいていないし、僕と君は今付き合ってるし、そろそろ次に進みたいと僕は思っているからどうなるのかは君次第だ。だから大丈夫とは言い切れないけど、僕は君を尊重したい。ただ一つだけこれだけは言いたい」
一息にそういい静かになると、電車がホームに滑り込んで賑やかになる。
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