わからないなりにわかること

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「来月移動になる」 ぎょっとして琴浦を見ると、いつもと変わらない飄々とした顔で桃子を見つめている。 「藤田管理官が手を回したんだ」 「遠くですか」 「都内だよ」 「どこですか」 「八丈島」 名前はわかるがどれくらいの距離かわからず黙ると琴浦が残念そうに言った。 「遠距離恋愛は嫌?」 「よくわからないです」 「そう」 「でも、琴浦さんと遠距離恋愛したいです」 「…そっか」 ホームに滑り込んできた電車が琴浦の自宅方面に向かうと確認した桃子は、琴浦の手をひっぱって電車に飛び乗ろうとする。しかし琴浦が動かなかった。思いつめたような顔を桃子に向け嬉しそうに言った。 「心強いよ」 あっという間に琴浦は旅立ってしまった。荷物の半分は処分したと笑い、最後は慌ただしいものだった。見送りには行けずに電話で話をしただけになってしまったのが残念だった。 毎晩のように電話して、メッセージをやりとりして、普通の恋愛もなにもしたことがないまま遠距離恋愛なんてものをやっている。 「これが遠距離恋愛なんでしょうか」 思ったことを伝えると、琴浦がスマホのディスプレイの中で笑う。ビデオ電話で喋れば顔も見られるし、あまりその弊害を感じていないのだ。
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