わからないなりにわかること

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『今度遊びにおいでよ。そしたらきっとわかるから。それより藤田管理官の動きは?』 「それが琴浦さんがいなくなってから何度か食事に誘われていて。恋人もいるのでと断ってるんですけど、諦めてもらえなくて」 『そばにいられなくてごめん』 「大丈夫です。琴浦さんのことを言うといつも悔しそうな顔をするのが面白くなってきましたから」 本当は大丈夫じゃなかった。正直もう鬱陶しい。そんなふうに誰かのことを鬱陶しく思うことなんてはじめてだった。 それだけ他人に興味なく暮らしていたのだろう。 昨日。藤田が桃子に押し付けた封筒を手に取る。藤田がいうには、琴浦がどれだけだらしない人間かわかるものが入っているという。そしてそのだらしないという言葉は、藤田のみならず明野と河合からも聞かされていた。桃子が琴浦と付き合うことにしたと伝えたすぐのことだった。 琴浦が同僚だか同期だかの妻にちょっかいをかけられたという事実は、桃子程度の人間には現実にあった話とは受け止め難くどこか小説などのあらすじなのではとさえ思えた。 (本人がいないのに、どうすれば) 封筒の中身をテーブルに並べる。調査書の写しのようだった。 (これ、わたしなんかに渡しちゃだめなんじゃ) そう思いつつ、文面を目でなぞる。 (…付き合ってはいなかったんだ。でも、向こうは離婚してる) しかしそれは夫のほうから愛想をつかしたからだとはっきりかかれていた。琴浦に迷惑をかけてしまったことを詫てさえいる。
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